月夜見
   
“月曜日のデート”
         〜大川の向こう

 
大きな川の真ん中に位置する、
小さな里の桟橋に、
向かいの川岸の町との間を
引っ切りなしに行き来する艀が今ついて。
雑貨屋しかないこちらから、
川向こうのスーパーへと
買い出しに出ていたお母さんたちや、
小学校しかないこちらから、
川向こうの中学校や高校に通っている
お兄さんお姉さんたちやが、
ぞろぞろと降りて来るのの中を。
時々背伸びまでしての懸命に、誰か探しておいでの坊や。
そちらもまだ小学生であるようで、
しかも低学年なら、一人で艀に乗ってはいけない決まり。
そのくらいは心得ておいでか、
桟橋のほうへは進んで来ぬまま、
懸命に背伸びをし、えっとえっとぉと見回して。
やっと、あっとお顔をほころばせた坊やへと、
やや足早になった小さなお兄さんが、速足になって寄ってってくれて。

 「どした、ルフィ。」

そろそろ川風も冷たくなる頃合いで、
小さな坊やの頬っぺも真っ赤。
駆け寄ったお兄さんの、
短く駆った髪から剥き出しのお耳も真っ赤。
ジャンパー姿のお兄さんへ、
坊やは はいと、合わせた両手を突き出す。

 「?」

何だろと小首を傾げる彼へ、
小さなお手々がお花の開花みたいにぱかりと開いて。
そこにあったのは、小さなカップ入りの、

 「……プリン?」
 「うん。今日の給食のおまけだ。」

それをどーぞと、逢ってすぐのお兄さんへと差し出す彼で。

 「…ともかく帰ろうや。」

人が次々に行き来する場所だし、
何というのか、事情が込み入ってそうな気がして、
とりあえず歩きながら聞こうと構えたお兄さんだったのは、
道場の中で、大人たちと同じに
指導側のお当番を既にこなしておいでだったからかも。
時々ひゅうんと吹きつける風に、
まとまりの悪い髪を撒き上げられてる小さな坊や。
大事そうに抱えてるところからも判るよに、

 「確かプリンは好物だったろに。」

なだらかな坂を登りつつ、
何で食ってねぇんだ?と訊けば、
小さな坊や、ちょっとうつむいてから、

 「あんな、今日はゾロのたんじょーびじゃんか。」
 「…………あ、ああ、うん。」

 あんなあんな、俺、何やったらいいか全然判んなくてな。
 そいでシャッキーに訊いたら、

 「自分がもらって嬉しいものをあげたら?って言われた。」
 「…そそ、そうか。」

それで、今日の給食で出た、一番好きなおまけのプリンを
食べもしないで持って帰り、
そのままゾロに渡そうとしたらしく。
坂の途中で立ち止まり、改めて

 「ん。」

はいと手を伸ばす彼が、どれほど一生懸命かは、
それこそゾロだもの、ようよう判る。
荒くれなおじさんが出入りしまくりのお家で
一番小さい王子様だから、
こういうおやつだおもちゃだ、何でも揃えてもらえる
それが当たり前という毎日を送っている彼が、
なのに一番好きなのを我慢したのだ。
どれほど大変だったかはすぐにも判ったし、
こっそりこくんと唾を飲む様子は、いっそ可愛すぎるくらい。

 「あのな? ルフィ。」

そんな王子様へ、ゾロの方でも渡すものがあるようで。
それは、小さな提げ手つきの真っ白い化粧箱。

 「あのな?
  俺は、ルフィが好きなもんを美味い美味いって
  嬉しそうに食うトコを見るのが大好きなんだ。」

 「…うや?」

だから、これ買って来たんだしと。
大川で一番のケーキ屋さんの箱を見せ、

 「帰ったら、一緒に食おうって誘いに行くつもりだった。」
 「ふや。」

 栗のとイチゴの、どっちがいい?
 あ、なんだったらどっちもやるぞ?

 うっと、
 それじゃあゾロのお祝いにならんじゃんか。////////

何だか一端の男女の会話みたいねと、
すぐそばのブロック塀の内側、
指物師のレイリーさんチの庭先に居合わせちゃったシャッキーさんが、
図らずして聞けた可愛らしいやりとりへ、
まあまあと笑みが絶えなかったのは言うまでもなくて。
ちょっぴり冷たい風吹く里も、
今日だけは特別に、暖かいお日和となりそうな気配です。



  
HAPPY.BIRTHDAYvv ZOROvv



  〜Fine〜  13.11.09.


  *二つ目は“大川”の腕白さんたち。
   ウチのいろんなゾロの中で、
   実は一番 大人というか、分別あるのがこのゾロくんです。
   まあ、周囲にこんだけ自由奔放な大人ばっかじゃあ、
   しっかり者になりもするわということで。
   こちらも奔放なルフィさんを
   先々、里で待っててあげられるのも彼だからでしょうね。
   (…手前味噌ながら)

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